北海道・知床、羅臼岳に泣く。
4:45に目覚ましはなり、徐々に明るくなってきた空にわくわくしながら山登りの準備。今日は2日待って、いよいよ羅臼岳に登る日なのだ。
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祝・世界遺産登録 |
知床峠に続く道
よい天気です。 |
こんな感じの登山道 |
朝ご飯を食べたり、水汲みをしたりして熊の湯の向かいのキャンプ場に車を置かせてもらい、そこから6時過ぎにスタート。少し歩いたところにある、登山届けのファイルを見てびっくりした。
え?わたしで2人目?
片道約7km、往復8時間を越える時間が設定されている羅臼岳登山。6時出発で遅い方だと思っていた。台風の後だから?いやいや、この2日天気が回復するのを待っていた人が多かったはずだ。もう9月に入ったから落ち着いたのか?それとも、ウトロ側からみんな登るのか?(羅臼岳へ登るには2つのコースがあるのだ)みんなウトロ側からだとすればこっちから登らない何らかの理由があるのか?
過去の登山名簿を見てみた。9月6日に1人。5日に2人。
こちら側からはどうも不人気のようである。
この羅臼市街側から登ると言っても誰も何も言わなかったけどなぁ。若干足場の悪いところと、屏風岩辺り、雪があれば迷いやすいところがあるとは聞いたけど。
まぁ、あれこれ考えたところで登ることには変わりはないので出発進行。
お盆にウラさんと富良野岳に登って以来の山歩き。ひさしぶりなもので、今日はゆっくりと登っていこうと決めていた。これから、斜里岳・大雪山・できれば羊蹄山と登ってみたい山があるので足を徐々に慣らしていきたいのだ。
今日わたしより先に登ったおじさんは5時に出発したと名簿に書いてあった。すでに1時間以上の差がある。登山道はシンとしていて、台風の後だから覚悟をしていたのに、道はそれほどひどい状態ではなく歩きやすそうに感じられた。
知床と言えば熊。
熊鈴を買おうと思ったのだけど、あるおねえさんに、熊がそこそこお腹が満たされている状態なら有効だけど、腹ペコ状態ならばかえって居場所を教えてしまって危険、熊の目潰しのスプレーがスポーツ用品店であるから利用してみては?と教えてもらった。
でも、そのスポーツ用品店が見つからなかった。
というわけで、結局はステッキでコンコンと木の幹を叩いて音を出しながら歩いていく。
鈴と一緒なんだけど。熊、来るなら来い!(強気)
しかし、観察しながら歩いていると結構ドキドキします。
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滝にいやされながらも。 |
足跡?にドキドキ。シカ?
それともステッキを2回ついた跡? |
これはシカのフンが
雨で固まったのか? |
やっぱりできることなら熊には会いたくないです、てへっ。
30分に一回のペースで休憩を取りながら歩いて行った。2kmを過ぎた頃に足も慣れてきたようでいい感じに歩けてきた。今まで、そうかな、そうかな、と思いながらもいやまだかも?と思っていたけれど、今日誰も居ないこの道を歩いていたときに吹いた風にわたしははっきりと感じました。
「秋」。
さわやかなからりとした風。明らかに夏の風とは違っていました。
あぁ。秋なんだなぁ。と、しみじみ。
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ミズナラの木
野付半島のナラワラがこの木だよね? |
巨大黒キノコ発見。
間違いなくあたりそう |
ときおり聞こえる鳥の声を目を凝らして探してみたり、きのこをツンツンしながら歩いて行き、ふと振り返るとそこには青い景色が広がっていた。
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うぉ〜! |
7kmのうちのまだ2kmちょっとしか歩いていないというのに何なんだ、この景色は。早く頂上から見える景色をこの目で見たいと思った。
またしばらく歩くとザアザアという川の音が聞こえ、開けたそこには赤い川がどっしりと構えてあった。なんじゃこりゃ〜!!何で岩の色が赤いんだ?鉄分が多いのか?
いい景色だったので大きな岩を見つけて座り、軽くパンを食べて休憩。
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赤い川 |
いろんなコケが生えてる |
しかし、そこだけではありませんでした。
しばらく歩くと、えらくぬかるんだところがあり、硫黄のにおいが結構きついなぁと思っていたら今度は白い川が目の前に!
もしかしたらどうってことない景色なのかもしれないけれど、わたしのハアトにはズキンと来る。何だかすごいものを見てしまったそんな気がした。空の青い色とのコントラストがめちゃめちゃ綺麗。辺りには見たこともないようなコケが生えていて秘境ムード満点です。心臓がドキドキしてきて探検している気分になってしまいました。
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硫黄のにおいがする白い川
(わたし的に超感動) |
初めて見た、
モコモコのコケ!(感動その2) |
ラスト2km地点の屏風岩の辺りには雪もなく、大きくロープを張ってくれていたので迷いそうになく、一安心。
しかし、実はここからが本番だったのです。
この登山道は一本道というわけでもなく、意外とあちこちに行けちゃう道がいろんな箇所にあるのです。よく見ればああそうか!こっちがそう言われてみれば人が通った感じのする道だなという感じで。で、スプレーで赤く矢印は一応描いてくれているのです。
描いてくれていたので、それに沿ってその矢印の方向へ進みました。
これって合ってるんだろうか。
こんなにキツイ道にロープもないんだろうか。
辺りを見回してみるけれど見つからない。
赤い矢印も随分見てない。
徐々にわたしが進む道は傾斜がきつくなり、這いつくばってでないと進めない。つかめそうな岩や丈夫そうな草を探して行く。つま先に常に力を入れていないと滑る。痛い。力を抜きたいけれど、両手両足のどこか一箇所でも地面から離れたらずり落ちてしまいそうな気がした。下を見たら怖かった。泣きそうになった。
登りでこんなに怖いのに、帰り、わたしは一体どうするんだろう。
いや、そんなことよりとにかく進むしかない。でもいつまで続くんだろう。
初めて思った。
「帰りたい」
ちょっと涙が出た。
「何で山に登るんだろう」
達成感や爽快感を味わえること。何だか山に登ると強くなれる気がした。人に何か言われたりするとすぐ泣いてしまう弱虫だ。わたしはこうだといい返せなかったりする。そんな自分が、もくもくと歩いたら少しづつ強くなれる気がして歩いていた気がする。
ふと、緊張しきった手足の動きを止めて空を見上げた。
風の強い空は今日の薄い雲をどんどん動かしていた。
今は見上げている雲。雲に少しでも近づきたいから高いところへ、高いところへと、山へ登るのかなと今日初めて思った。わたしは白い雲が大好きなのだ。
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屏風岩
これをしばらく過ぎたところで |
近づきたい |
エゾツツジ |
横を見るとかわいい花が咲いていた。
とにかく進めば先に必ず頂上があるんだ。
最大の難所は乗り越えたと思ったら今度は雪が現れた。9月に雪!!幸いなことに覆いつくされてはなかったけれど雪の近くを歩くとかなりぬかるんでいて足をとられそうになった。
しかし、あまり離れると今度はハイマツのこどものようなのが生えていて足の踏み場がないのだ。どうしよう。よく見れば薄いゾーンがあったので木を傷めないように慎重に進んでいく。傾斜はやわらかくなったものの今度は地面がゆるいのでまだ気は抜けない。しかも時折思い出したような突風が吹く。姿勢を低くして風が止むのを待つ。
人に会いたいと思った。
誰でもいいから、人間に会いたいと思った。
唯一救われたのは、新しい靴跡がそこにあったこと。きっと先に登ったおじさんもこの道を通ったに違いない。ならばわたしもきっと無事先に進めるはずだ。勇気が出た。
雪ゾーンを何とか越えたときに目に入った白い物体。
やった、ロープだ!!
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雪渓 |
希望の光 |
何とかかんとか這いつくばってロープのところまで平行移動しロープをつかんだ。あぁよかった。このロープ沿いを歩いていけばもう大丈夫だ。
ウトロ側からの合流地点から頂上までは、こんなに人がいたのか!というくらいの混みようで、無人島から大都会へ放り込まれたようなそんな気がした。あぁ。よかった。本当によかった。人間だ。バンザイ!
ラスト500mくらいからは岩場をよじ登るに近い感じの道だったけれど、今までのことを思えばそんなのはへっちゃらだ。
そして出発して5時間20分後、頂上へと到達しました。
感無量です。雲は見えなかった。ガスと強風が待ち構えていた。それでもいいと思った。到達することのよろこびや達成感。晴れていたらと思わないでもないけれど、きっと晴れいても曇っていてもそれはあまり変わらない気がした。
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頂上への道 |
羅臼岳到達!(涙)
さむい!! |
20分ほど頂上の隅っこに座って登ってくる人を見ていた。折り畳みじゃない傘持ってるおばさんがいるよ!なるほどステッキ代わりにしたわけね。フムフム。おぉ、Gパンにスニーカー。そんなにウトロ側からは登りやすいのか?
さぁ、行くか。
反対側のウトロ方面へ抜けようかと思った。これだけの人が歩いていたら何よりも安心だし、もうあの道を歩かないでいいと思うとそれだけでホッとする。
でも、帰りが困る。車は羅臼にあるのだから。ウトロから羅臼に行くバスがあるのか?それともヒッチハイクか。?
いや、気になるのだ。
わたしは道を間違えたのだと思う。間違えてなかったならどんな道なんだろう。帰りにはその道を見つけられると思った。
羅臼市街への道へと戻ろうとしたとき、おじさん+おばさんグループに声をかけられた。
「そっちは羅臼だよ!」
「羅臼から来たので。また来た道を戻ろうと思ったんです」
そう言うとおじさんたちは「ええ?羅臼から来たのか。一人で?まだ雪が残っていたけど大丈夫だったか?ウトロからよりも羅臼の方が距離が長いし、キツイだろう。ウトロのほうは片道6.5kmだけど楽だよ」と畳み掛けるように言われた。そう言われるとウトロから帰りたくなるんだけど。
「う〜ん、バスはないけどね」
そう言われてやっぱり来た道を戻ろうと思った。実は他の人にも言われていた。「羅臼から?それはそれはキツイ道をごくろうさん」。
普通に通ってもキツイ道を、(恐らく)道を間違えてさらにキツくしてしまったわたし。バカすぎる。
とにかく、来るまで誰にも会わなかった。つまりは足を捻ったり、骨折しても誰も助けてくれないということだ。時間はどれだけかかってもいいから、無事に帰ろうと思った。
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頂上への道に咲いてた
イワギキョウ |
少し下ると
そこには素晴らしい景色が
イエイ! |
登りで見つけたかった |
来るときに見つけたロープを辿って下っていくと、途中雪の中にロープが消えてしまったものの、際を歩いて行くと、次のロープが見つかった。これを。この道を登りで見つけられていたら。(泣)。
そこに辿り着いたとき、安心したからか痛みに初めて気がついた。
両足のつま先辺りに感じる痛み。多分水ぶくれに過ぎないんだろうけど、あの急な登りのときにつま先を酷使したからか、足をまともに着くことがためらわれる痛み。
もういやだ、とこのままやめてしまえたらどんなにいいだろう。
でも、山登りは登りと下りでひとつ。帰らないわけにはいかないのだ。
見つけたその新しい道はもちろんわたしが登りで歩いたあの道よりもはるかに歩きやすかった。そこから登った道を見上げるとよくこんなところを歩いたなぁと思った。
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画像ではわかりにくいけど
よくこんな道を。
と思います、ハイ |
一体どこで?!そう思いながら歩いていると、わかりました。これは矢印の向きをもうちょっとかえるか。いや、もう1本確実に必要だと思います。この道へと通じる入り口のところに。入り口と最後の矢印があまりに離れていて、それでわからなかったんだ。
現にきっと前を歩いたおじさんもきっと間違えてるしね、ネ?まぁ、2度とこの道は通らないと思うしこのコースは誰にも薦めないと思うけど。いや、間違えたのはわたしとおじさんだけだったかも?
まぁ、今更言っても仕方がない。
それにしても7kmがこれほど長いとは思わなかった。足の痛みは増す一方。えっちらえっちら歩いていく。本当に7kmなんだろうか。もっと距離がある気がする。もう熊なんてどうでもいい。きっと出てきても逃げる力もないと思った。
最後の2kmは割と楽な道のはずなのに力を振り絞ったつもりでも1時間以上かかった。もうまともに足をつけない。
「下山しました」
登山届けにそう書いたとき、涙が出た。もう時計は17時を少し回っていた。休憩も入れて往復14kmに11時間。何て長い長い道のりだったんだろう。間違いなく、わたしの少ない登山経験で最も過酷なものでした。今日のは、利尻の9合目〜頂上までよりも怖かった。
旅も思い出も楽しいことである必要はない。それでも今日はチョットきつかったなぁ。
所詮はこの程度。あまっちょろいです。もっと力をつけなければと痛切に感じた次第です。はい。
ジムの運転席に座るとホッとした。そしてすぐさま車を走らせた。向かった先はセイコーマート。アイスクリームを2つと、ジュースを2本購入。体に悪かろうと太ろうとそんなことどうでもいい。
「アイスが食べれるよ、ジュースが飲めるよ」と励ましながら歩いたのだ。たかだか60円のソーダアイスがめちゃくちゃおいしかった。そして初めて登山靴と靴下を脱いだ。
すーっとして緊張から本当に解放された気がした。
今日は髪も洗いたかったし、日帰り温泉のホテルを教えてもらって入りに行った。
丁寧に全身を洗い、温泉に浸かった。あぁ。気持ちがいい。あちこちをゆっくりとマッサージ。温泉を出ると19時過ぎ。もう真っ暗だった。空には無数の星が。うっかりと、ひとつやふたつ、今にもこぼれおちてきそうだった。
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